世界でもっとも美しい国・アイスランド。外国からの玄関口ケプラヴィーク国際空港は首都レイキャヴィークから南西に延びるレイキャネス半島にある。

 レイキャネス半島は地質学的にはプレートが造られる海底山脈が海面上に現れたものだ。本来は潜水艇を使わないと見ることができない光景を地上で見ることができる貴重な場所なのだ。火山やプレートの話をするとマニアックな人たちの領域のように思う方があるかもしれないが、決してそうではない。アイスランドでは一般の人々も火山や地震、断層といった地球の現象に非常に関心を持っている。町のレストランの壁に岩石の種類によって色分けしている地質図という専門家が使う地図を、まるでポスターを貼るような手軽な感覚で貼っているほどだ。

それではレンタカーで気軽に見てまわれる海底山脈・レイキャネス半島をご紹介しよう。

世界一の大海底山脈

 南北アメリカ大陸とヨーロッパ・アフリカの間に広がる大西洋。2億年前、そこにはパンゲアという巨大な大陸があった。15200年前にパンゲアは分裂をはじめ、海洋底が広がっていった。それが現在の大西洋だ。

 大西洋海底にはかつてパンゲア大陸を分断した海底山脈が何千キロにもわたって南北に走る。この海底山脈では激しい火山活動があり、今でも新しい海底を造り、東西の大陸を引き離している。

 この大海底山脈を陸上で見ることができる場所がある。それがアイスランドだ。アイスランドは北大西洋に浮かぶ日本の四国と北海道を足したくらいの島だ。ここではプレートと呼ばれる巨大な岩盤が東西に引き裂かれ、溝状に陥没した地溝帯が形成されている。地溝帯の中にできた無数の割れ目、ギャオから玄武岩マグマを噴出し、火山を造り出す。まさに大地創生の島アイスランドである。さあ、この地上に現れた海底山脈でレンタカーを借りて旅してみよう。

大地の裂け目ギャオ・
海底山脈の上にできた国

 

 アイスランドの玄関口、ケプラヴィーク国際空港はレイキャネス半島の先端近くにある。高度を下げる飛行機の窓の下には地球の活発な活動を思わせる荒涼とした溶岩の台地が広がる。空港で車をチャーターし、陸上の海底山脈・レイキャネス半島の旅へと出発した。

 レイキャネス半島の西には北米大陸が載っている北アメリカプレート、東にはヨーロッパからアジアまですっぽりと含まれるユーラシアプレートが広がっている。この2つのプレートはこのレイキャネス半島で生まれて年間数センチメートルで離れていく。ここはプレートが造られる生成部なのだ。

 プレート境界はレイキャネス半島にの中央からやや南を通っている。プレート境界線に対してプレートは斜めに動いている(図4)。そしてレイキャネス半島にはアイスランド語で裂け目を意味するギャオと呼ばれる断層がいくつもある。プレートが東西に離れていくにしたがってこれらのギャオが広がっていく。広がったギャオが地下のマグマがあるところまで達するとマグマが噴出するため、ギャオにそって火山が並ぶのである。


過去の大噴火が造った玄武岩溶岩原

 ケプラヴィークと首都レイキャヴィークを結ぶ幹線道路からハフニールに向かう道に入る。ハフニールを過ぎるとそこは真っ黒な玄武岩が果てしなく広がる荒涼とした溶岩原になる。玄武岩には窓ガラスの主成分にもなっている珪素が少なく、またここの溶岩は非常に高い温度で噴出するため流れやすく、広い範囲にわたって溶岩原が形成された。溶岩には湾曲した縄目のような模様がしばしばみられる。このシワが湾曲している方向を見ることによってかつて溶岩が流れた方向を知ることができる。この溶岩はパホイホイ溶岩という。パホイホイというのは、ここアイスランドから遠く離れた常夏の島ハワイの言葉だ。

 

地球を分断するレイキャネス断層

道にそってさらに進むと溶岩原の中にレイキャネス断層がひっそりとあかぎれのように地球の傷口を開けている。レイキャネス断層について書かれた看板があるのだが、なぜか道路沿いにはなく、100メートルほど溶岩原に入ったところにある。しかも駐車場がないので、道路わきに車を止めて見学する。

レイキャネス断層は北米プレートとユーラシアプレートを分断する断層だ。断層の前にぽつんと立っている看板には地質学的な解説が載っている。まるで鋭利な刃物で玄武岩を切断したような断層だ。断層の中には真っ黒な美しい砂が敷かれている。周りの岩石が砕けて風で運ばれてきた天然の砂だ。その両側には断層崖が垂直にそびえている。断層崖には何枚もの溶岩流を見ることができる。断層の幅は10m程度。さらに幅は広がっていつかマグマを噴出することになる。

さらに道にそって進むと湯気があがっているのが見える。地熱を利用した工場のようだ。この地域はグンヌヴェルという地熱地帯がある。地面のいたるところから蒸気が上がっている天然の温泉だ。

 ここからさらに前進すると6キロほど未舗装の道路になる。グリンダヴィークを通ってブルーラグーンへ行こう。

世界一の超巨大露天風呂

 ブルーラグーンはツヴァルトセンギ地熱発電所の隣にある1ヘクタールもある世界一大きな露天風呂だ(図7)。ツヴァルトセンギ地熱発電所で地下2キロからくみ上げた珪素や塩分がたっぷり含まれた熱水を、発電で使用した後に露天風呂に供給している。世界中からたくさんの人が温泉治療のためにやってくる世界一の湯治場だ。浴場ではさまざまな言語が飛び交っている。日本の温泉と違って、ブルーラグーンでは水着を着て入浴するため、男女混浴だ。

微細な粒になった二酸化珪素が太陽の光のうち青い色だけ散乱させるため、お湯の色は青白く見える。底には白い砂でもしかれているのかと思ったが、真っ黒な火山性の砂が敷き詰められている。露天風呂の真ん中へ行くと湯面が首の辺りまでくるくらい深くなる。世界一大きい露天風呂だけあって、場所によって温度にかなりのムラがある。あまり人が行かないところへ行くと誰も湯をかき回していないので、いつの間にかとても熱いお湯の中に入り込んでしまうことがあるので注意しよう。

 体が温まったら板張りの散歩道を歩いてみよう。10月下旬になると日本の真冬より寒いが、体が十分温まっているとそれほど寒さを感じない。オーロラが見えるだろうかと期待したが、やはり真冬でないと見られないようだ。北の空には北極星が真上に近いところで輝いている。北極星の高さはその土地の緯度と同じ高さになる。例えば日本の京都は北緯35度なので、北極星の高さも35度になる。一方、アイスランドのレイキャヴィークの緯度は64度なのでほとんど真上で輝いているのだ。アイスランドは周囲が広大な大西洋であるため、空気が非常に澄んでいて、夜空は星で埋め尽くされている。

氷河の下で噴火した火山・スタパフェトル

 ハフニールからケプラヴィークにもどる途中に右側に採石場へと続くゲートがある。扉は昼間開いているが夜は閉まってしまう。注意書きをよく読んで入ろう。ゲートを越えて平原を6キロほど走ると小高い丘が見えてくる。その丘はスタパフェトルという卓状火山で、今は採石場になっている。スタパフェトルを含め、アイスランドの火山の多くは一度しか噴火しない単成火山であるため、スタパフェトルはすでに活動していない。

 卓状火山はその名のごとく机のように山頂部は平坦で、周囲が急な崖で取り囲まれた火山だ。英語ではtable mountain という。このタイプの火山は氷河の下でマグマが噴出して作られた。ちなみにスタパフェトルはアイスランド語でStapafellと書き、fellは「山」という意味で「フェトル」と読む。

卓状火山はこのようにしてできる(図8)。氷河の下で灼熱のマグマが噴出すると、氷が熱せられて水に変わる。その中にでた灼熱の溶岩は丸い枕のような形をした枕状溶岩となる。ハフニール付近で見た溶岩のように、本来スタパフェトルの溶岩も流れやすかった。しかし水の中に噴出した溶岩は急激に冷やされるため流れない。そのために急峻な崖を氷河の下に形成する。この時点で噴火が終わるとパラゴナイトリッジという細長い山脈になる。

さらに噴火が続くと溶岩は氷河が溶けてできた氷河湖の水面近くに達して、熱せられた水が水蒸気爆発を起こして大量の火山灰を噴出する。このときに枕状溶岩の上に火山灰が降り積もっていく。そして山体が水面に出るくらい成長すると溶岩は水平に流れ、平坦な山頂を形成する。

 氷河期が終わり温暖な気候に変わって氷河が融けてなくなると、あとにはテーブルのような形をした卓状火山が残るというわけである。

1万数千年前まで地球は氷河期にあり、アイスランドは全土が氷河に覆われていた。アイスランドには各地に山頂が平坦な山を見ることができる。すべてではないが、その多くがこのように氷河の下で作られた卓上火山である。

採石場の事務所から右に入ってすぐのところに山が大きく削られている崖がある。そこを見て驚愕する。すべて丸い枕状溶岩なのだ。しかも新鮮そのもの。日本でも枕状溶岩を見ることはある。しかしそれは太平洋の海底噴火でできて何千万年もかけて日本列島に運ばれてきた古いものばかりだ。だから形がよく見ないとわからないものが多い。しかしスタパフェトルのそれは、まるで昨日できたような新鮮さだ。スタパフェトルは氷河期末期に噴火した火山だ。

横にブルドーザーが上るための傾斜がついていたので上ってみた。すると直径50センチメートルほどの別の大きな枕状溶岩に出くわした。すごい路頭だ(図9)。

枕状溶岩に顔を近づけてよく見ると、緑色をした透明なお米くらいの大きさの粒がいくつも入っているのがわかる。これはオリビンという鉱物で、大きなものはペリドットという宝石で指輪などに加工されている。

ブルドーザーの傾斜を登りきるとそこは平坦に造成されていた。多分その上も山があったのだろうが、削られてなにもなかった。

いったん傾斜を降りて別のところからスタパフェトルの断面が見られる場所を探した。先ほどのブルドーザーの傾斜を左に見ながら歩いていると、傾斜の断面に奇妙な模様が見えてきた。枕状溶岩だ。しかし丸い枕状溶岩というより、細長く伸びたヒトダマのような形をしている(図11)。水深が深いところでできた枕状溶岩は丸い形になるが、比較的浅い水中でできたものは細長く伸びたような枕状溶岩になる。これは素晴らしい路頭だと思っていると、もっとすごいのが現れた。

卓状火山の全体の断面そっくりそのままそこに現れていた(図12)。一番下に氷河の下でマグマが噴出してできた枕状溶岩が横たわる。枕状溶岩は氷河湖の冷水で急激に冷却されたために周辺部から中心に向かって放射状の割れ目・摂理ができている。また枕状溶岩のもっとも外側は冷水で急激に冷やされるため、独特の光沢を放つガラスが全体を覆っている。灼熱のマグマが氷河の冷水によって急冷されてできるときの大事件がそのまま壁画になったような光景だ。

そのすぐ上には淘汰度(粒の大きさがそろっている)が良い火山灰の層が6mほど積もっている。火山灰はほとんどが火山ガラスで顕微鏡で観察するとマグマが爆発によって細かく飛び散ってできる丸い気泡のかけらが見える。火山ガラスというのはマグマが急激に冷やされてできるガラスの粒だ。

火山灰の上には卓状火山噴火の最後の段階である陸上でのマグマ噴出によってできた溶岩流が見られる。溶岩流には柱状摂理という柱状の溶岩ができる。柱状摂理は溶岩が冷却して固まるときに冷却面に対して垂直に割れ目が走ってできる(図13に京都府夜久野町の柱状節理の例がある)。冷却面というのは例えば地面や大気に触れている表面だ。

氷河期のアイスランドは全土が厚い氷に覆われていたため、各地にこのような卓状火山が見られるが、山全体を切り崩して火山の断面が見られるものはそう多くない。

クリスヴィークの教会とセルトゥン温泉

 グリンダヴィークから海岸沿いの道をクライファールヴァトン湖(Kleifarvatn)へ向かおう。道路はすぐに未舗装になる。あまり良くない道なのでゆっくり運転しよう。

 途中小さな山脈を見ることができる。パラゴナイトリッジだ。このような火山もギャオからマグマが噴出した結果造られた。地図を見るとレイキャネス半島が延びている方向に対して斜めにいくつ物山脈ができていることがわかる。レイキャネス半島の中央からやや南にプレート境界が通っているが、東西のプレートは境界線に対して直角ではなく、斜めに動いているのだ。そのために半島が延びている方向に斜めにせん断の裂け目(ギャオ)が形成され、その方向に火山が造られるというわけだ。

 しばらく玄武岩の荒野を走り、クリスヴィークに近いところで峠を越える。すると岡の向こうに小さな教会が視野に入る。まるで絵画の世界から飛び出してきたような光景だ(図17)。

 教会の辺りから舗装された道路になる。クライファールヴァトン湖の方向へ左折してしばらく行くとセルトゥンの噴気が見える(図18)。駐車場があるので、そこに車を止めて遊歩道にそって見学しよう。

 硫黄を含んだ温泉がいたるところで沸いている。温泉は地下水がマグマの熱で熱せられて地上に出てくるため、マグマに含まれるミネラルをたくさん含んでいる。日本ではこのように温泉が沸いているところにお風呂を作って入浴することが多いが、アイスランドでは天然の温泉は天然のままにしていることが多いようだ。

 この地域の地下1000m付近での温度は200℃でそこから温泉が上がってくるらしい。

 かつてここでは銃弾の火薬のために硫黄を採掘していたという。

クライヴァールヴァトン

 セルトゥン温泉を出るとすぐにまた未舗装の道路に変わる。この湖は2000年までは長さ6km、幅2.3kmだった。しかしこの年の6月にアイスランド南部で起きた地震の後、湖に割れ目が生じ、毎日1cmずつ水位が低下しだした。岸が1kmも沖へ行ってしまった箇所もあるという。岩場についている枯れた水草から、かつて水があった位置がわかる。私が見たときは3mほど水位が低下しているのがわかった。 


 ノルディック火山研究所のある研究員の話によると、湖底に裂け目ができていて底から水が流れ出しているらしい。しかもかなり遠くのレイキャヴィーク付近まで流れていっているという。さらに、この裂け目から出た水が、潤滑油の役割をして岩盤をゆっくりと滑らせて、亀裂をさらに大きくしていることも考えられるという。


 1912年にも同様の事件があり、そのときは水位が元に戻った。今回も戻るであろうといわれている。私がここに取材で訪れたとき(200110)は湖底の一部が現れ、湖底で噴出する温泉から湯煙が上がっており、地元住民が見物に来ていた。

スィンクヴェトリル

 レイキャヴィークから走る36号線を東へ行くと、草原の中に小さな池がぽつりぽつりと見えてくる。池のほとりには小さな家が建っている。こんな草原の中にぽつんとある家だから、電気も水道もない昔ながらの生活をしているのかもしれない。

 さらにしばらく走り続けると大きな湖が見えてくる。スィンクヴァトラヴァトンだ(図20)。ヴァトンとは湖という意味のアイスランド語だから、スィンクヴァトラ湖ということになる。この湖がある場所がまさに北米プレートとユーラシアプレートが生まれているプレート生成部である。プレート生成部ではプレートが両側から引き裂かれていくためにたくさんのギャオが形成され、この地域全体が陥没する。プレート境界にそって土地が溝状に陥没するため、地溝帯と呼ばれている。スィンクヴェトリルはレイキャネス半島の付け根にあたり、海底山脈の延長線にある。

 まずはアルマンナギャオの前の高台に車を止めてスィンクヴェトリル全体を見渡してみよう。アルマンナギャオはとは「全人類のギャオ」という意味で、西暦930年ここで世界初の民主議会が誕生した。アルマンナギャオは両側を岩壁に囲まれているため、声が反響しやすく、大勢の人で話し合いをするのに適していたという。

 高台からは地溝帯の中にたくさんのギャオを見ることができる(図21、22)。この地域全体がバリバリと引き裂かれているようすがよくわかる光景だ。アルマンナギャオを境に手前(西側)の方は北米プレートで、ずっと向こうに見えるタフリッジの山脈あたりから向こう側(東側)がユーラシアプレートだ。両方のプレートが東西に移動しているためにこの地域が引き裂かれ、溝状に陥没しているというわけだ。あかぎれのように開いたギャオはやがて地下のマグマまで達して噴火する(図19)。ずっと向こうに見えている細長いタフリッジ(細長い山脈)や、アルマンナギャオの延長線上にあるアルマンスフェトル、それにずっと北に見えているスキャルドブレイダーは、みなそうしてできた火山だ。

 スキャルドブレイダーは典型的なアイスランド型楯状火山だ。楯状火山とは西洋の兵隊が戦いに使った楯を伏せたような形をしている火山をいう。非常に流れやすい溶岩を噴出するためにこのように平坦な火山体が造られる。スキャルドブレイダーは直径約10kmもあるのに大して、比高は550mしかない、非常に平坦な山体だ。余談になるが、ハワイの火山も楯状火山と呼ばれている(図23)。これらはアイスランドのものよりはるかに巨大で、ハワイ型楯状火山と呼ばれている。アルマンナギャオやその周辺、それにスキャルドブレイダーも造られてから1万年もたっていないくらい若い。一般に地球科学の世界では何万年という時間の単位を用いるが、スィンクヴェトリル周辺の地質はごく最近できたものばかりだ。

 遊歩道があるので、アルマンナギャオの中へ入ってみよう。ギャオの幅は数十メートル。ギャオの内側の壁には何枚もの玄武岩溶岩流が積み重なっている(図24)。もともとここは溶岩原であったようだ。しばらく奥へ進むと、階段が設けられ、地溝帯の方へ降りることができる。地溝帯が陥没したためにアルマンナギャオの一方の壁が地溝帯側に傾いている様子がわかる。アルマンナギャオをさらに進むと、そこには国旗掲揚のポールがたっている。

 車に戻って36号線を通って地溝帯に入ろう。地溝帯に入ってすぐに売店がある。観光案内所も併設されているが、夏場しか営業していないようだ。売店でホットドッグやポテトチップスなどを買って食べることができる。

 アルマンナギャオのすぐ近くのスィンクヴァトラヴァトン湖畔には美しい教会とホテルがある。教会の近くにあるフロサギャオ(図26)には湖の水がたまっている。水が透き通っていて底に観光客が投げ入れたコインが底に見える。深さ数十メートルはあるだろう。透き通った水の底を見ていると、まるで吸い込まれそうだ。ギャオはこのように深く地中に裂けている断層だ。この裂け目がマグマだまりまでたっすると噴火が始まる。地溝帯の中にはいたるところにギャオが通っていて、しかも非常に深い。歩くときはギャオに落ちないように注意しなければならない。

売店の横から52号線に入って北へ向かおう。北にはアルマンスフェトルという巨大な卓状火山がそびえている。52号線はアルマンスフェトルの際を通って、アルマンスフェトルから伸びる細長い尾根を斜めにのぼって越える。道路がこの尾根を横断するところから北はハイアロクラスタイトという火山岩で造られているが、道路から南ではこの尾根がギャオに変わっているふしぎな場所だ(図27)。ハイアロクラスタイトはマグマが水の中に噴出してできる岩石だ。水が熱せられて水蒸気になると体積は急激に膨張する。これが水蒸気爆発だ。この爆発によってマグマがばらばらに引きちぎられて、さまざまな大きさの溶岩がいっしょになる。それがハイアロクラスタイトだ(図28)。

 この尾根と道路が交差する場所から南はスレザースギャオが続く。氷河期末期、この場所も氷で覆われていた。あるときスレザースギャオの裂け目が地下のマグマに達し、マグマがギャオを伝って氷の下に噴出し、この尾根を造った。道路から南の部分はたまたまマグマが地上に達せず、ギャオがそのまま残っているわけだ。

 ここからさらに北へ進むと地道になる。さっきの尾根と同じようにしてできた山が右側に見える。タフリッジと呼ばれるギャオに沿って氷の下で噴火してできた細長い山だ。

 地道のアルマンスフェトルの崖には枕状溶岩が見られる。

 来た道を売店まで戻り、地溝帯の東側端へ行ってみよう。スィンクヴェトリル地溝帯の西の端を走るアルマンナギャオから東へ4kmほど行くと地溝帯東の端を走るフロフナギャオにたどり着く(図29)。このギャオは地溝帯側が陥没しているために、場所によっては10mくらい落ち込んでいる。ちょうどアルマンナギャオの逆の向きである。

 このフロフナギャオから東側には広大なユーラシアプレートが広がっている。北大西洋、ヨーロッパ、中国、そして日本の長野県まで続いている。糸魚川と静岡を結ぶ巨大断層帯フォッサマグナだ。一方、アルマンナギャオから西へはグリーンランド、カナダ、アラスカ、そしてこちらも日本の長野県まできて、ユーラシア大陸と再び出会っているのだ。アイスランドは地質学上日本の裏側にあるといってもよい。

エピローグ・海底山脈は続く

 世界で唯一のレンタカーで旅ができる海底山脈・レイキャネス半島には地球の活発な活動を目の当たりにできる魅力的な場所だ。この海底山脈はレイキャネス海嶺と呼ばれ、半島の先端から西は海の中へと入っていく。そして深海底へと続いていく。海の中の海底山脈は太陽の光が届かない真っ暗な世界で、噴出する温泉の周りにシロウリガイやチューブワームといった我々人間が眼にすることのないふしぎな生物が暮らしているという。レイキャネス半島では残念ながらそんな生き物たちに会うことはできないが、海底山脈が作る大地のふしぎな世界を陸上で車にのって体験できる貴重な場所なのだ。

レンタカーで旅する海底山脈ガイド

レンタカー:アイスランドにはケプラヴィーク国際空港から入国する。空港の出口にはいくつかのレンタカー会社が事務所を開いている。事前に予約をしておくことをお勧めする。日本からインターネットで予約することもできるが、アイスランド航空の日本支店でも予約してくれる。空港にある受付で予約番号と名前を言う。日本の免許証がそのまま使えるが、日本語で書かれているので、国際免許証を持っていったほうが無難だ。

ホテル:夏場はアイスランドは観光シーズンで非常に込んでいるので予約が必要だ。それ以外の季節はすいているので、特に必要ない。小さなモーテルでは経営者が別の仕事を掛け持ちしていて、普段受け付けに人がいないことがある。そのような場合は事務所入り口に電話があって、そこからオーナーの携帯電話に連絡してチェックインをする仕組みになっている。モーテルは安価で(日本円で5000円程度)暖房が効いていて清潔かつ快適だ。







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レンタカーで旅する海底山脈

―アイスランド・レイキャネス半島―
写真・文:山本 睦徳

図2 パンゲア

図1

図3:大西洋のプレート生成部

図4:プレートの境界

図5:レイキャネス半島の地図

図8:卓状火山のできかた

図9:卓状火山スタパフェトルの枕状溶岩

図10:スタパフェトルで採取したかんらん石玄武岩。緑色をした粒がかんらん石。

図11:スタパフェトルの枕状溶岩

図12:卓状火山スタパフェトルの構造

図13:京都府夜久野町の玄武岩の柱状節理

図14:柱状節理の模式図

図16:

図17:クリスヴィークの教会

図18:セルフォスの噴気

図19:地溝帯の模式図

図20:スィンクヴェトリル地溝帯

図21:スィンクヴェトリル。右がユーラシアプレートで左が北米プレート。

図22:スィンクヴェトリルの解説

図23:キラウェア火山

図24:アルマンナギャオの断面

図25:スィンクヴェトリル最大のギャオ・アルマンナギャオ

図26:フロサギャオ

図27:ギャオがパラゴナイトリッジに変わるところ

図28:マグマが水中に爆発的に噴出してできた
ハイアロクラスタイト。

図29:フロフナギャオ

図30:世界のプレート

図6:レイキャネス断層

図7:世界最大の温泉・ブルーラグーン
(えはがきの写真を借用)