京都地学名所めぐり

つくばいの作り方

風流のたのしみ方

山本 睦徳

つくばいはお寺などにある穴があいていて中に水をためる石で、2本の竹の棒を渡していて、その上にひしゃくが置かれているものです。かけひと呼ばれる水が出てくる竹やししおどしなんかがついた洒落たつくばいもあります。実は私は趣味でつくばいを作って、数年前まで毎年10月になると舞鶴市が主催する舞鶴アートアンドクラフトフェアにつくばいとか石灯籠なんかを出展していました。もう人に売ってしまって手元にないのですが、かけひやししおどしまで作って、バケツで水を入れて常にかけひから水が出てきてししおどしが動くようにして展示していました。落ちる水を受けてししおどしがコンと音をたてて動く様は本当にうつくしいと思うのですが、なぜか大人より子供のほうが興味をもってくれるようで、集まってくるのはほとんどこどもばかり。大人になると風流を忘れてしまうのでしょうか?

 つくばいは私が勝手に分類すると大きく分けて2種類あります。すべて人工的に削った面で作られているつくばいと、自然のままの石の肌を生かしたつくばいの2つです。どちらかといえば、前者の方が多いように思います。なぜならば、機械を使って均一なものがいくつも作ることができるからです。しかしこれはあまり味がありません。私はこの手のものは作りません。私が作るのは自然の石の肌を生かしたつくばいです。石灯籠を作るときもそうです。自然の石の肌をできるだけ生かして、いかに素晴らしい作品を作るかで、作家のセンスが分かれるところです。そして、この自然の石の肌を生かしたつくばいのほうが価値が高いものです。

 本文でとりあげました鞍馬石でつくられたつくばいを見かけることがよくありますが、鞍馬石のつくばいは自然の赤錆びた表面をそのまま生かして作ったものです(この赤錆を削り取ってしまっては鞍馬石の価値がなくなりますよね)。

 今日は自然の石の肌を生かしたつくばいの作り方をご紹介しましょう。

 まずは石選びです。石の種類はいろいろ考えられますが、風化しすぎてもろい石はまず除外です。いくらかっこよくできても、水がもれるようなつくばいではだめです。石の種類はとくに限定しなくてもいいでしょう。私は奈良県神野山の斑レイ岩を良く使いました。神野山の斑レイ岩は表面がほどよく赤茶けていて、鞍馬石に似ています。わびさびの世界にしっくりくる石です。しかも輝石という鉱物が風化に耐えて米粒のように浮き出ているので、よけいに面白い石です。室戸岬にある斑レイ岩ペグマタイトでもつくばいを作ったことがあります。ここの斑レイ岩はひとつひとつの鉱物が非常に大きく、数センチに達する鉱物もあるくらいです。このように大きな鉱物から出来ている深成岩(マグマが地下で数百万年かけてゆっくり冷えて固まった岩石)をペグマタイトといいます。室戸岬の斑レイ岩は現地の人たちの間でカスリ石と呼ばれています。カスリというのは着物の模様ですね。黒い輝石の間に長細い斜長石がちりばめられている様子は本当にカスリに見えます。貴船やその奥の山では緑色岩が採集できます。川の中でよい形になった石を探してみてください。貴船の石はとくに貴船ヨモギとか紫貴船とかいう名前がついているほど、良い石です。

 さて、ここで注意です。あまり大きな石は持って帰らないようにしてください。トラックで運ぶくらいの石を持って帰った場合、つくばいは塀の向こうで作ることになります。手で持てるくらいの大きさにしてください。両手で抱えるくらいの大きさだと問題ないでしょう。

 石を採集するときに注意する点は、ひび割れがないかよく確認することです。ひび割れがあると、加工中に真っ二つに割れるなど、致命傷となってしまいます。ですからひび割れにはよく注意して採取してください。

 つくばいを作る際の道具は、

 ドリルに付けるダイヤモンドカッター(直径数センチメートル)、ドリル、2mmくらいの鉄鋼ドリルビット、超硬チップ付のたがね、かなづち、防護めがね、バケツなどです。

 カッターはドリルに付けるタイプのもので、表面にダイヤモンドがついているものを選びます。ホームセンターで数千円で売っています。基本的に石を加工するときはダイヤモンドがついた工具が必要です。ダイヤモンドは削るのに使います。そして超硬チップ付のたがねです。超硬チップというのはチタン合金で作られた非常に固い先のことです。ジェット機のエンジンのファンもこのチタン合金で作られています。高速で回転するファンは普通の金属で作ると遠心力でちぎれてしまうので、チタン合金でないとだめなのです。これはホームセンターではほとんど売っていません。工具類専門のお店で取り寄せます。

 石のドリルがあれば非常に便利です。しかし石のドリルは入手が非常に困難です。私は大阪の専門の会社から購入しました。ボール盤という固定できるドリルがあるのですが、それに筒状のコアドリルというのをつけて、水を出しながら石に穴をあけます。これがあれば百人力です。

 では石の加工をはじめましょう。石のどの部分に穴を開けるか決めます。マジックでおおまかな輪郭を描いておく手もあります。そして穴を開ける部分にダイヤモンドカッターで刻みを入れていきます。5mm間隔くらいで刻みを入れ、出来た溝にたがねを入れてハンマーで割ります。こうして刻みをいれて残った板状のところをたがねで割るようにして、穴を作っていきます。できるだけ縁の壁は垂になるようにカッターで切ってはたがねで整形していきます。穴が十分深くなったら、たがねで穴の形を整えます。カッターで切った跡が残っていたらみっともないですから、たがねで切り跡をなくしていきます。

 さて、もしコアドリルとボール盤、給水器が手に入ったら、これを使わないって手はありません。ただ電器工具は怖いですから弱いモーターのボール盤(つまり安物)がいいと思います。私は9800円の超安もんボール盤を使っていました。これだったら手で止められるくらいモーターのちからが弱いですから、怪我をしません。ドリルがある場合は一気に石に穴を開けてしまいます。コアドリルは穴を開けるといっても、筒状のドリルビットですから、筒状にしか穴が開きません。芯が残るわけです。ではどうやってその芯を取り除くのかと言うと、たがねの先を芯の上部に当てて、ハンマーでカツンと打ちます。あまり強烈にガンとたたくのでなく、弱すぎず強すぎず、カツンとたたくのです。すると芯は根元からパキっとおれてくれます。芯を穴から抜き出して、穴の中を覗くと芯の残りが残っている場合があります。そういう場合はたがねでコツコツとたたいてつぶしていきます。

 これで石の加工は終わりました。次は竹細工ですね。竹は秋に伐採します。他の季節のものはお勧めできません。冬ならまだOKです。竹やぶで竹を取るのはダメです。泥棒です。しかも竹やぶの竹は太すぎてつくばいには向いていません。竹は山で伐採します。山のどのへんに生えているのかといいますと、川の近くです。竹は1000年に1度しか花を咲かせません。私の勝手な説なのですが、竹というやつは竹やぶひとつでひとつの命なのではないでしょうか。ま、それはいいとして、1000年に1度しか花を咲かせないやつですから、普段はどうやって増えるのかといいますと、根っこで増えるのです。どうして川にいくと竹が生えているのかと言えば、大水で根っこがながされて、流れ着いたところで竹やぶを作るからです。ちょっと余談になってしまいましたが、川へ行けば竹が生えています。竹の子を栽培している竹やぶはだめでも川に生えている竹ならとっても問題ありません。

 竹は石に合わせた太さのものを選んでください。出来る限り、極力根っこ付近で、細密のこぎりで切ります。細密のこぎりとは刃が非常に小さいのこぎりで、細かな作業のためにあるのこぎりです。もしくは小刀できってもいいですが、これは上手な人でないとうまく切れません。いずれにしても、切るときは最後が大切で、一筋竹がめくれることがよくあります。竹は繊維が発達していますから、1本めくれたら、それがずっとめくれていくんです。せっかくの竹の肌が台無しですから、めくれたところは小刀で切り落としてそれ以上めくれないようにしてください。竹の枝は小刀で丁寧に、めくれないように切り落とします。枝は葉っぱを取り除いて残しておいたほうがいいでしょう。

竹は伐採したあと日陰で干します。2週間くらい干していると、乾燥してきます。色が黄緑色になったら、油抜きをします。竹を炭火でじっくりあぶって油が表面に現れたところを乾燥した布で磨きます。これが油抜きです。炭火を起こすのが難しい場合はガスコンロでもできます。ただし、竹が焦げないように気をつけてください。油抜きをした竹は実に美しい光沢をもちます。

ひしゃく置きをつくりましょう。竹は節が密にあるところを選び細密のこぎりでつくばいの穴にかかるよう適当な長さに切ります。茶道の世界ではつくばいに渡す竹は2本決まっています。3本にしたら無駄だからです。無駄なことは一切しないのが茶道なのです。

しゅろ紐はヤシの繊維で作られています。ホームセンターに行けば売っていますが、できるだけ細いしゅろ紐を買いましょう。買ってきたしゅろ紐はそれでも多分太くて小さな竹をくくるのは至難の業でしょうから、解いて細くして使います。2本の竹を2ヶ所で結んでひしゃく置きはできあがりです。

 次にひしゃくをつくりましょう。これも石の穴に合わせた大きさの竹をひしゃくの水を入れる部分に選びます。コップができるように竹を切断します。そこにさしこむための竹を選び、その竹とおなじくらいの太さのドリルビットをドリルにつけて、コップに柄を突き刺す方向に穴をあけます。そして柄を突き刺して、ぎゅっとかみ合うようにします。すぽっと抜けてしまわないようにうまく太さをあわせてください。柄の長さも石に合わせて下さい。

 ひしゃく、ひしゃく置き、穴の開いた石。この3つをうまくおいてつくばいの完成です。虫たちが良い音色でなく名月の夜、つくばいの水面に移った月と陰になったすすきをみて風流を楽しみませんか。

つくばいの作り方

京都石物語

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