溶融硫黄噴火の仕組み

一般に硫黄は黄色い固体として広く知られている。硫黄の温度を上げると、徐々にオレンジ色に変化し119℃で融け始める。融けた硫黄は赤茶色を示し、さらさらと流れる。


上の写真は、溶融硫黄噴火が起こった知床硫黄山1号火口(新噴火口)周辺のジオラマだ。最後に硫黄噴火が起こった1936年当時のカラー写真が無いので、ジオラマで当時の噴火のようすを示し、色もできるだけ忠実に示した。噴火は4日に一度の割合でくりかえし起こったことが知られている(Watanabe 1940)。溶融硫黄は火口から流れ出し、谷に流れ込んで冷えて固まる。硫黄は溶融しているときは赤茶色い色を示す。谷で冷え固まって固体になると黄色い硫黄になる。このジオラマは、噴火初期に流れた硫黄が黄色い固体になって谷を埋め、その上をさらに赤茶色の溶融硫黄が流れているようすを表現している。

硫黄は火口沢(ジオラマでは分岐しているところから右へのびている谷)へ流れ、そこが硫黄で埋め尽くされると、今度は左へ分岐してカムイワッカ川に流れ込んだ。火口沢に流れた硫黄も下流ではカムイワッカ川に合流する。硫黄が流れた長さは合計で1.4kmにもおよぶ(渡邊・下斗米1937)。

溶融硫黄噴火の仕組み

江戸時代末期から史実に残っている噴火はすべて中腹の1号火口(新噴火口)で起こっている。硫黄が噴出するのは1号火口であっても、活動の中心は1号火口にはなく、火口の東側に広がる斜面にある。1号火口の東側斜面には噴気帯が広がっており、いたるところで硫化水素を含む火山ガスが噴出している。この地域の地下には地下水が通る帯水層があり、そこに火山ガスが入り込んで火山ガスどうしの反応により硫黄が作られている(Yamamoto et al 2017)。

このとき火山ガスが地下水に溶けることによって温泉が作られ、温泉水は帯水層を流れ下って1号火口の火口底やカムイワッカ川に湧き出している。実際、カムイワッカ川の源流は、1号火口に近いところにある。

1号火口の東側斜面は地熱が上がってきているために植生が薄い。かなり広範囲に火山ガスが上がってきているため、帯水層はさほど分厚くなくても大量の硫黄を生成することができる。

この東側斜面の帯水層で、長年硫黄が蓄積されていく。火山活動が活発化したときに硫黄は帯水層を流れ、1号火口から噴出する。1号火口は活動が活発な地域のもっとも標高が低い位置でなおかつ活動域のはずれにある。1号火口は帯水層が外の世界に開けた窓の役割をしている。




文献:
●Watanabe T., 1940. Eruption of molten sulphur from Siretoko-iosan Volcano, Hokkaido, Japan. Japanese Journal of Geology and Geography 17, 289-310 .

●渡邊武男・下斗米俊夫、1937 北見国知床硫黄山昭和11年の活動 北海道地質調査会報告第9号 p37

●Yamamoto M., and Goto T., Kiji M., 2017. Possible mechanism of molten sulfur eruption: Implications from near-surface structures around of a crater on a flank of Mt. Shiretokoiozan, Hokkaido, Japan. Journal of Volcanology and Geothermal Research 346 (2017) 212-222

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