たのしむコラム

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−ペレの呪いか?!ー

山本睦徳の岩石標本持ち出し体験記・および文化交流体験記
2004年1月19日執筆

 キラウェア火山を最後に訪れて早くも1年ちかくがたちます。ものすごい灼熱地獄みたいなところで溶岩流の撮影をしたことや、国立公園管理局に提出したはずの書類が届いていなくて、現地で1から申請しなおしたことなど大変なことはいっぱいありましたが、今思い出すと10日間の調査取材で一番大変だったのは、なんといっても展示用岩石標本の持ち出しです。あれはほんと、大変でした。

 ハワイ原住民の間ではキラウェア火山にペレの女神が住んでおられると信仰されています。空港で売られていたハワイの伝説に関する本(まだはじめの方しか読んでいませんが)によると、ペレという女神が、まぁ、いろいろあって、別の島からハワイ島へやってきてキラウェア火山に住み着いたのだそうです。それで、溶岩がどろどろと流れ出るのはペレの怒りであると現地では信仰されているのです。そういうことで、ハワイでは石を島の外に持ち出すということは非常にバチアタリなことなのです。

 ハワイ原住民がこんな信仰をされているのは、現地へ行って実際に溶岩がながれているところとか、溶岩で埋まってしまった森や住宅があった場所を見ると、ほんと理解できます。なるほどなぁって思うんですよ。カラパナという村があったんでが、1990年の溶岩流で村は埋まってしまったのです。そこへ行きましたが、ほんとうに溶岩以外なにもない、だだっぴろ〜〜い溶岩原です。そのときの調査の目的は日本でキラウェア火山の展示をすることでしたので、溶岩原を歩き回ってパホイホイ溶岩の縄目状溶岩を採集していたんです。

 少々余談になりますが、そのとき1人の男性が現れました。彼はもともとカラパナ村に住んでいた人で、GPSという人工衛星で位置を測定する機械を持っていました。GPSというのはトランシーバーくらいの大きさの携帯用のカーナビです。その男性はそれで自分の家が建っていた場所を探していたのです。

 本題にもどりましょう。その溶岩原を歩いていると非常に奇妙な溶岩に出会いました。まるで蛇みたいににょろにょろと細く長く延びる溶岩です。しかも重力に逆らってぴょんと上に伸びたところで固まっているのです。そういうのを見ると、やはりハワイ原住民が溶岩に対して神がかり的なものを信仰する気持ちがよく理解できます。

 さて、10日間の滞在で展示用の岩石標本を500kgちかく採集してモーテルの部屋に集めていきました。そしてハワイを立つ2日前に前もって手配しておいた運送会社に連絡をして、岩石標本を日本へ送るために引き取りに来てくれるように頼みました。ところが、帰ってきた言葉は「石はダメだ。ペレの呪いがかかっているからダメだよ」これの一点張りでどうしようもありません。
 
 そこで電話帳をめくって他の運送会社に電話しましたが、どこへ電話しても答えは同じ「石はペレの呪いがかかっているからダメ」とのことでした。

どうしよう〜〜

 最悪の場合を想定して、帰りの飛行機に500kgの石を手荷物として積んで帰れるようアロハ航空と全日空に電話をしました。なんと合計で31万円もかかるんです。

 そうこうしているうちに日は暮れてしまいました。

 次の日の朝、つまりハワイを発つ1日前、まずはアロハ航空の航空貨物事務所へ行きました。航空貨物はダメなんですよ。同時多発テロ事件のため連邦政府から見知らぬ人から荷物を引き受けるなというお達しが来ているんだそうです。

 それでフェデックスへ行きました。フェデックスでは引き受けはできるのですが、料金が90万円。とんでもない額です。でもどうして航空貨物がだめなのに、フェデックスは値段が高いとはいえ引き受けてくれるのでしょうか???

 次にUPSというフェデックスのような宅急便屋へ行きました。そこでも値段ははやり90万円。とんでもない額です。

 その次は郵便局へ。規則で大きな荷物は送れないのです。私の標本は大きすぎてダメでした。

 とほうに暮れて、港にあるコンテナ会社の事務所へ行きました。そこで今までの経緯を説明して相談したのです。するとそこのおばさんがあちこち電話してくれました。「日本からの青年が事務所に来ていて、石を日本に送りたいんだけど、そっちで扱ってくれない?」って電話で話してくれるんですが、やはり石はどこもダメです。あるとき、そのおばさんは石を言わずにある運送会社に電話してくれました。おばさんが地図を描いてくれて、その地図を見て車を運転しました。

 幹線道路から地図に従って入っていくと、そこは水たまりだらけのドロンコの地道でした。その道の奥に小さなトレーラーハウスがありました。コンテナ会社のおばさんに紹介してもらったC社の看板があがっていました。ドアを開けて「こんにちはぁ」って入っていくと、そこはやはり運送会社の事務所でした。話は順調に進んで、送り先の住所とか電話番号なんかを伝え、このままスムーズに進むかと思ったのもつかの間、問題の質問が待っていました。

 「中身はなに?」あ〜〜聞かれてしまった、この質問。そこで、私は「博物館標本です」と答えました。その頃私は博物館に勤めていたので、正真正銘の博物館資料です。で、次の質問は「博物館資料って何?」これですよ、これ。ウソつくわけにもいかないので、「石」って言ったのです。

 すると横で聞いていた社長さんが、
「い・し〜〜〜!!!!!」

(実際には英語でROCKS!!!!!!!と叫んでいましたが)

と両手を挙げて驚いているではありませんか。

絶体絶命の危機!!

 その驚き方というと、まったく尋常じゃありませんでした。目玉をひんむいて驚いているんですから、よほどのことなのでしょう。それもそのはずなのです。私たち日本人には石といえば、タダの石。でもハワイ原住民にとっては本当に恐ろしい呪いがかかったものなのです。その社長は日系人だったのですが、ハワイでは原住民以外の人も原住民の宗教を尊重して常に気遣って暮らしているのです。

 とにかく社長は心臓が止まるほど驚いているのです。そこで私はこういったのです。「わかります。ハワイ原住民が石にペレの呪いがかかっていると信仰されていることは重々承知していますし、私も彼らの気持ちを理解しています。しかし、私はこの石を日本に持ち帰ってキラウェア火山の展示をして、日本人に火山の恐ろしさや、興味深さ、素晴らしさを知ってもらいたいのです。」すると社長さん「わかりました。引き受けましょう。」と言ってくれたのです。2ヶ月後、岩石標本は無事大阪南港に到着しました。

 その後、2003年11月に大阪市立科学館でのジオカーニバルでその岩石を展示して、たくさんの方々に見学していただきました。他にも展示するところを探しているところです。めでたし、めでたし。

 今世界のあちこちで、とくにイラクとかイスラエルとかで自爆テロとかありますよね。一方ハワイには白人もいれば、日系人や黒人、それに原住民もいるわけです。日本の神道の神社や仏教の寺はあるし、キリスト教の教会もあります。キラウェア山頂にあるハレマウマウという火口ではハワイ原住民がペレの神にお供え物をしていて、国立公園の管理事務所では、観光客にお供え物に触れないでほしいと伝えています。ハワイを白人が乗っ取ったとかいう歴史はあるにしても、現在はお互いに相手の宗教や文化を認め合って、平和に暮らしているんですよ。中近東とか宗教で対立していますよね。自爆テロがあったり、報復攻撃があったり。でも、ハワイのようにお互いに相手の宗教を認め合っていけば平和に一緒にくらしていけると私は思いますね。

というわけで、今日はこれにて。

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